
老子道徳経の「道」は宇宙の根源であり、万物を産みだし、育て、生命を終えたものたちが帰る場所でもあります。このように表現すると道は偉大なものだという感じがしますが、一方で道は生み育てた万物を所有も支配もせず、またこのような優れた働きによる名声を要求することもありません。このように無欲で自己主張のない存在は、例えば人間社会の中の存在であれば弱く小さいものと思われてしまいそうです。しかしながらこのような無欲さ、謙虚さ、そして偉大な働きが組み合わさったときに人間社会の中でも本当に大きな存在になれるんだよと老子は教えています。
The Small Yet Great Workings of the Way
In the Dao De Jing, “the Way” is described as the source of the universe—the origin from which all things are born, the force that nurtures them, and the place to which they return when their lives are complete. This may give the impression that the Way is something vast and majestic. Yet, the Way does not possess or control the beings it brings forth, nor does it seek recognition for its wondrous work. Such an unselfish and unassertive presence might, in human society, be mistaken for weakness or insignificance. But Laozi teaches that when selflessness, humility, and quiet greatness are combined, they form the very foundation of true greatness within human life.
漢文・書き下し文と現代語訳
大道氾兮、其可左右。萬物恃之而生、而不辭。
大道(だいどう)氾(はん)として、其(そ)れ左右(さゆう)す可(べ)し。万物(ばんぶつ)之(これ)を恃(たの)みて生(しょう)ずるも、而(しか)も辞(じ)せず。
大いなる道は、あまねく右にも左にも広がっている。万物はすべて道を根源としてそこから生じ、しかも(道は万物を生み育てて)厭うことがない。
- 氾(はん):水があふれ広がる、あまねく広がる
- 恃(たの):たのむ、あてにする、また母親の意味もある。
- 辞(じ)せず:①拒まない・厭わない、②言葉にしない
功成不名有。愛養萬物而不爲主。
功(こう)成(な)りて名(な)を有(ゆう)せず。万物(ばんぶつ)を愛養(あいよう)して主(しゅ)と為(な)らず。
道はこのようにすぐれた働きをするが、それを自分の名声としない。万物をいつくしみ育てるが、支配者や、所有者とはならない。
- 功(こう): すぐれた働き。りっぱな仕事。てがら。
- 愛養(あいよう):いつくしみ養うこと。大切にして育てること。
- 主(しゅ):支配・所有関係の中心となる人。
常無欲、可名於小。萬物歸之而不爲主、可名爲大。
常(つね)に無欲(むよく)なれば、小(しょう)と名(な)づく可(べ)し。万物(ばんぶつ)之(これ)に帰(き)して主(しゅ)と為(な)らず、名(な)づけて大(だい)と為(な)す可(べ)し。
道は常に無欲だから、小さく弱い存在のように思われる。しかし万物を産み育てる根源であるのに支配も所有もしないのは、大きな存在であるといえる。
是以聖人、終不自大、故能成其大。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)、終(つい)に自(みずか)ら大(だい)とせず。故(ゆえ)に能(よ)く其(そ)の大(だい)を成(な)す。
道のこのような性質をふまえて、道の在り方を自らの在り方の理想とするりっぱな人は、自分が大きな存在であるとは主張しない。しかしそのために、かえって大きな存在となる。

