
三千人いたといわれる孔子先生の門人の中でも、随一の秀才で先生からも認められていた顔淵が、先生をたたえてため息をついています。
先生は山のように高く、たがねでも切れない金属のような堅固さがある。新しさと古典を柔軟に操られ、順序立てて弟子を導くこと巧みである。古典や書物で見識を広げ、礼儀や規律で引き締めてくださる。もうこれくらいでよいという限界をもうけない。私はすでに自分の能力才能の限りを尽くしたが、高くそびえる先生に従いたいと願っても、とてもおよばない。
三千人の頂点にいた弟子にこんな風に言われる先生は、どんな方だったんでしょうか。
A Master Beyond Our Reach
Among the three thousand disciples of Master Confucius, it is said that Yan Hui—regarded as the most gifted and acknowledged even by the Master himself—once sighed in admiration of his teacher.
The Master is as lofty as a mountain, as firm as metal that cannot be cut even with a chisel. He moves freely between what is new and what is ancient, skillfully guiding his disciples step by step. He expands our understanding through the classics and refines us through ritual and discipline. He never sets a limit and says, “This is enough.”
I have already exhausted the full measure of my abilities and talents, yet even if I long to follow my towering Master, I cannot possibly reach his height.
What kind of person must he have been, to be spoken of in this way by the foremost disciple among three thousand?
漢文と書き下し文
顏淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅。瞻之在前、忽焉在後。夫子循循然善誘人。博我以文、約我以禮。欲罷不能。旣竭吾才。如有所立卓爾。雖欲從之、末由也已。
顔淵(がんえん)喟然(きぜん)として歎(たん)じて曰(いわ)く、之(これ)を仰(あお)げば弥〻(いよいよ)高(たか)く、之(これ)を鑚(き)れば弥〻(いよいよ)堅(かた)し。之(これ)を瞻(み)れば前(まえ)に在(あ)り、忽焉(こつえん)として後(うしろ)に在(あ)り。夫子(ふうし)循循然(じゅんじゅんぜん)として善(よ)く人(ひと)を誘(いざな)う。我(われ)を博(ひろ)むるに文(ぶん)を以(もっ)てし、我(われ)を約(やく)するに礼(れい)を以(もっ)てす。罷(や)まんと欲(ほっ)すれども能(あた)わず。既(すで)に吾(わ)が才(さい)を竭(つ)くせり。立(た)つ所(ところ)有(あ)りて卓爾(たくじ)たるが如(ごと)し。之(これ)に従(したが)わんと欲(ほっ)すと雖(いえど)も、由(よし)末(な)きのみ。
現代語訳
門人の顔淵がためいきをついて、先生をたたえてこういった。仰ぎ見るといよいよ高く、いろいろな質問をしてもきちんと答えを持っていらっしゃる。先進性があるかと思えば、また古典を大切にされる柔軟性がある。先生は、順序立てて巧みに私たちを導いてくださる。私たちの見識を広げるために古典や書物を用い、私たちを引き締めるのに礼儀や規律を教えて下さる。もうこれくらいでよいということがない。私はすでに自分の能力才能の限りを尽くした。先生は私の前に高くそびえていらっしゃる。私も先生に従いたいと願うのだが、とてもおよばない。
解説
- 顔淵(がんえん):孔門十哲の一人で、随一の秀才。孔子がその将来を嘱望した弟子で、孔子より三十歳年少だが孔子より早く亡くなり、孔子は「天(てん)予(われ)を喪(ほろ)ぼせり」と嘆いた(先進第十一)。名誉栄達を求めず、その暮らしぶりは極めて質素だった。参考:Wikipedia 顔回
- 喟然(きぜん):ため息をつくさま。嘆息するさま。
- 歎(たん)じて:先生をたたえて、感嘆して
- 之(これ)を仰(あお)げば:仰ぎ見て尊敬する
- 鑚(き)る:金属など固いものを切断する。鑚(たがね)は鋼鉄製の手工具の一つ。木工ののみに似た工具で、ハンマーなどでたたいて、金属の切断、石・コンクリートの破砕などに用いる。
- 忽焉(こつえん)として:にわかに、突然
- 循循然(じゅんじゅんぜん)として:順序だてて
- 博(ひろ)むる:見識を広げる
- 文(ぶん):古典、書物
- 約(やく)する:ひきしめる
- 罷(や)まん:途中でやめる
- 卓爾(たくじ):高くすぐれるさま
- 由(よし):方法、手段

