論語【泰伯第八】206. 理想のリーダーは私を捨てて公に尽くす

孔子先生は、中国最古の王朝といわれる夏王朝を建国した聖王、禹については批判すべき欠点を見つけることができない、とおっしゃいます。禹王はご自分の食生活や居室などは質素にする一方で、先祖のお祭りは手厚く行いました。また黄河流域の夏王朝では黄河の氾濫が農耕に甚大な被害を及ぼしていたため、多くの民の生活がかかっている治水事業には自ら尽力し、13年もの長い工事期間中は、3回自宅の前を通りかかっても、家にも入らず事業を優先したという逸話が残っているほど、自分をすてて公に尽くした人でした。

The Ideal Leader Devotes Himself to the Common Good
Master Confucius said that he could find nothing to criticize in Yu the Great, the sage ruler who founded the Xia dynasty, considered China’s earliest dynasty. While Yu lived frugally in his diet and living quarters, he performed ancestral rites with great care and generosity.

In the Xia realm along the Yellow River, flooding caused immense damage to agriculture, threatening the livelihoods of many people. Yu personally devoted himself to flood control works. It is said that during the thirteen years of construction, he passed by his own home three times without entering, always prioritizing the project. He was a man who devoted himself selflessly to the public good.

漢文と書き下し文

子曰、禹吾無閒然矣。菲飮食、而致孝乎鬼神、惡衣服、而致美乎黻冕、卑宮室、而盡力乎溝洫。禹吾無閒然矣。
子(し)曰(いわ)く、禹(う)は吾(われ)間然(かんぜん)すること無(な)し。飲食(いんしょく)を菲(うす)くして、孝(こう)を鬼神(きしん)に致(いた)し、衣服(いふく)を悪(あ)しくして、美(び)を黻冕(ふつべん)に致(いた)し、宮室(きゅうしつ)を卑(ひく)くして、力(ちから)を溝洫(こうきょく)に尽(つ)くす。禹(う)は吾(われ)間然(かんぜん)すること無(な)し。

現代語訳

孔子先生はこのようにおっしゃった。夏王朝を建国した禹王については、私は欠点を見つけることができない。ご自分の食事は質素にし、先祖は手厚く祭られた。普段の衣服は贅沢を避け、祭祀の服装は見事なものであった。ご自身の居室は簡素なものとされ、公のための治水事業には力を尽くされた。禹王については、私は欠点を見つけることができない。

解説

  • 禹(う):「書経」に登場する聖王。父親の鯀(こん)が失敗した黄河の治水事業を受け継ぎ、洪水を治めることに成功した。その功績として舜から帝位を禅譲され、夏王朝(BC2070-BC1600)を建国した。夏は中国最古の王朝と考えられている。参考:中国の歴史
  • 間然(かんぜん):批判する、注文をつける、欠点を指摘して非難する
  • 飲食(いんしょく)を菲(うす)くして:生活をきりつめて、食事を粗末にして
  • 孝(こう)を鬼神(きしん)に致(いた)し:先祖を大切にまつる、祖先の祭祀を盛大に行う、お供え物を豊富にする
  • 黻冕(ふつべん):お祭りごとの服装。祭服。
  • 宮室(きゅうしつ)を卑(ひく)くして:自分の家は簡素にして
  • 溝洫(こうきょく):田と田との間のみぞ。