論語【泰伯第八】189. 人の上に立つ者の心得三つ

孔子先生の高弟であった曾先生(曾子)の遺言は、人の上に立つ者の心得三つ。ひとつ、自分の姿かたちを整えて粗暴さや傲慢さの無いようにすること。ふたつ、自分の顔色を正しくして信頼感を醸成し、また信頼できる人に近づいてゆくこと。みっつ、言葉づかいは礼儀をわきまえ、悪口雑言のような理にそむくいやしさの無いようにすること。

Three Precepts for Those Who Lead
Master Zeng (Zengzi), a distinguished disciple of Confucius, left three injunctions for those who stand above others. First, cultivate one’s bearing and appearance, so as to be free of coarseness and arrogance. Second, maintain a proper expression to inspire trust, and draw close to those who are trustworthy. Third, observe propriety in speech, avoiding abusive or slanderous language that runs counter to reason.

漢文と書き下し文

曾子有疾。孟敬子問之。曾子言曰、鳥之將死、其鳴也哀。人之將死、其言也善。君子所貴乎道者三。動容貌、斯遠暴慢矣。正顏色、斯近信矣。出辭氣、斯遠鄙倍矣。籩豆之事、則有司存。
曾子(そうし)、疾(やまい)有(あ)り。孟敬子(もうけいし)之(これ)を問(と)う。曾子(そうし)言(い)いて曰(いわ)く、鳥(とり)の将(まさ)に死(し)なんとするや、其(そ)の鳴(な)くや哀(かな)し。人(ひと)の将(まさ)に死(し)なんとするや、其(そ)の言(い)うや善(よ)し。君子(くんし)の道(みち)に貴(たっ)とぶ所(ところ)の者(もの)三(さん)あり。容貌(ようぼう)を動(うご)かしては、斯(ここ)に暴慢(ぼうまん)に遠(とお)ざかり、顔色(がんしょく)を正(ただ)して、斯(ここ)に信(しん)に近(ちか)づき、辞気(じき)を出(いだ)して、斯(ここ)に鄙倍(ひばい)に遠(とお)ざかる。籩豆(へんとう)の事(こと)は、則(すなわ)ち有司(ゆうし)存(そん)す。

現代語訳

曾子の病が重篤であるとき、魯の大夫の孟敬子がお見舞いに来た。曾子は「死期を前にした鳥の鳴き声は悲しく、死にゆく人は善言を発する」ということわざを引用し、遺言として次のように語った。人の上に立つ者が大切にすべきことが三つあります。まずその姿かたちは粗暴さ、傲慢さから遠ざからねばなりません。顔色を正しくして信頼感を醸成し(信頼できる人には近づいてゆき)、言葉づかいは礼儀をわきまえ、理にそむくようないやしさからは遠ざからねばなりません。祭祀のときの器ものをどうするかといった細かなことは、それぞれ担当の役人に任せればよろしい。

解説

  • 曾子(そうし):曾子(そうし):孔子より46歳若い、主要な弟子のひとり。曾子の弟子に孔子の孫の子思(しし)が、その子思の弟子に孟子がいた。孝の道(親孝行)に優れており『孝経』『大学』の著者。曾は姓、子は先生に対する敬称。
  • 疾(やまい)有(あ)り:病気で危篤であった
  • 孟敬子(もうけいし):魯国の大夫。代々魯の実権を握った三桓氏(さんかんし)のうち孟孫氏の一族。
  • 之(これ)を問(と)う:曾子の見舞いに行った
  • 鳥之將死、其鳴也哀。人之將死、其言也善:当時のことわざ。遺言として言いたいことがある。
  • 君子(くんし):為政者、支配者
  • 容貌(ようぼう):かおかたち。すがた。
  • 暴慢(ぼうまん):粗暴で傲慢。
  • 信(しん):信頼
  • 辞気(じき):ことばを使うときの様子、態度。ものの言い方。言葉遣い。
  • 鄙倍(ひばい):(悪口雑言などの)賤しい、下品さ。理にそむくいやしさ。
  • 籩豆(へんとう): 祭祀のとき、食物を盛って供えた器。
  • 有司(ゆうし):その職を行うべき係の役人。