論語【雍也第六】148. 人に施し人を救う

孔子先生は、弟子の子貢の質問に答えて、多くの人々に恩恵をもたらし、救済できるような人は、仁者どころではなく、聖人であり、古代に優れた治世を行った聖王でさえその達成には心を悩ませたとおっしゃいます。

一方、仁の実践はもっと身近なもので、自他非分離で、例えば自分が身を立てたいとか、目標達成したいと思うなら、自分の周囲の人がそれができるように奉仕することなのだと。

儒教は人に施し人を救うのが人間として生まれてきた意味であるという思想です。自分より周囲の人優先が仁で、それができれば人生が豊かに。自分優先では孤立してしまいます。

Giving and Saving Others

In response to his disciple Zigong’s question, Confucius said that one who can bring blessings and deliverance to many people is not merely a benevolent person, but a sage. Even the sage kings of antiquity, who governed with great virtue, found such an achievement difficult.

By contrast, the practice of benevolence is something closer to home. It involves recognizing no separation between oneself and others. For example, if one wishes to establish oneself as a capable and independent person or achieve success, one should help those around them to do the same.

Confucianism teaches that the true meaning of human existence lies in giving to and saving others. Benevolence means placing others before oneself — and in doing so, one’s life becomes richer. When one puts oneself first, isolation inevitably follows.

漢文

子貢曰、如有博施於民、而能濟衆、何如。可謂仁乎。子曰、何事於仁。必也聖乎。堯舜其猶病諸。夫仁者己欲立而立人、己欲達而達人。能近取譬。可謂仁之方也已。

書き下し文

子貢(しこう)曰(いわ)く、如(も)し博(ひろ)く民(たみ)に施(ほどこ)して、能(よ)く衆(しゅう)を済(すく)う有(あ)らば、何如(いかん)。仁(じん)と謂(い)う可(べ)きかと。子(し)曰(いわ)く、何(なん)ぞ仁(じん)を事(こと)とせん。必(かなら)ずや聖(せい)か。堯舜(ぎょうしゅん)も其(そ)れ猶(な)お諸(これ)を病(や)めり。夫(そ)れ仁者(じんしゃ)は己(おのれ)立(た)たんと欲(ほっ)して人(ひと)を立(た)て、己(おのれ)達(たっ)せんと欲(ほっ)して人(ひと)を達(たっ)す。能(よ)く近(ちか)く譬(たと)えを取(と)る。仁(じん)の方(ほう)と謂(い)う可(べ)きのみと。

現代語訳

弟子の子貢(しこう)が「もし多くの人に恩恵を施して、民衆を救うことができたら、どうでしょうか。仁者と言えるでしょうか。」と質問した。孔子先生は、「それができたら、仁どころではない。それこそ聖人である。古代の聖王である堯や舜もそのことに心を悩ませた。仁者というのは、自分の身を立てようと思えば他の人が身を立ててやり、自分が目的を達成しようとすれば他の人の目的を達成させてやる。自他非分離で自分ならこうしたいと思うことを、自分に身近な人ができるように奉仕する。これが仁を実践する方法だ。」とおっしゃった。

解説

  • 子貢(しこう):孔子の弟子で、孔子より三十一歳年少。孔門十哲のひとり。弁舌に優れ衛、魯でその外交手腕を発揮した。商才に恵まれ、孔子門下で最も富んだ。参考:Wikipedia 子貢
  • 博(ひろ)く民(たみ)に施(ほどこ)し:多くの人に恩恵を施して
  • 衆(しゅう):民衆、大衆
  • 何(なん)ぞ仁(じん)を事(こと)とせん:仁どころではない
  • 必(かなら)ずや聖(せい)か:(仁どころではなく)聖人である
  • 堯舜(ぎょうしゅん):「書経」にみられる古代の聖王。 参考:中国の歴史
  • 病(や)めり:心を悩ませる
  • 己(おのれ)立(た)たん:自分の身を立てる
  • 己(おのれ)達(たっ)せん:自分が目的・目標を達成する
  • 近(ちか)く譬(たと)えを取(と)る:身近なところで自分だったらと考える
  • 仁(じん)の方(ほう):仁を実践する方法