
【書経】のリーダー像
書経は、中国の古代国家の聖王(堯・舜・禹)による政治を描く歴史書。
その巻頭「堯典第一節」で、堯帝に見るリーダー像を言っている。
日若(えつじゃく)古(いにしえ)の帝(てい)堯(ぎょう)を稽(かんが)ふるに曰(いわ)く、「放勲(ほうくん)は欽明(きんめい)、文思(ぶんし)は安安(あんあん)にして、允(まこと)に恭(うやうや)しく克(よ)く譲り、四表(しひょう)を光被(こうひ)し、上下(じょうげ)に格(いた)る。克(よ)く俊徳(しゅんとく)を明(つと)め、以て九族(きゅうぞく)を親しみ、九族(きゅうぞく)既(すで)に睦(むつ)みて、百姓(ひゃくせい)を平章(べんしょう)し、百姓(ひゃくせい)昭明(しょうめい)にして、万邦(ばんぽう)を協和(きょうわ)し、黎民(れいみん)於(おお)いに蕃(しげ)り、時(こ)れ雍(やわら)ぐ」と。
昔語りの神官が古代の聖王、堯帝(ぎょうてい)を考えて言うには、「(堯帝の)放つ武勲(ぶくん=手柄)は誰の眼からも明らかであり、細やかな思いやりは安定して発揮されていた。非常に慎み深く、手柄は人に譲る。あたり一面を光で覆うようなオーラがあり、上から下まで、この人についてゆこうと思う。優れた徳は明らかであり、側近も兄弟のように親愛の情で一体化していた。側近が信頼し合って、国民には公明正大な政治がおこなわれていた。国民は身分相応の幸せを全員が望み、世の中はよく治まってなごやかであったので、万(よろず)の邦(くに)が協同和合した。そこでもろもろの民が大いにさかえ、和気あいあいとしていた。」
- 「放勲(ほうくん)欽明(きんめい)文思(ぶんし)安安(あんあん)」がリーダー像。 実力と実績があるだけでなく、細やかな思いやりが安定して発揮されている。
- 「古(いにしえ)を稽(かんが)ふる」の部分は「稽古」の語源。稽古するとは、いにしえを考えること。創業者の心がけや精神を考えてみる。
- 「文思」の「文」は心のあやまで読んだ思いやり、優しさ。 文身(ぶんしん)は刺青のことで、アイデンティティ、装飾、自分を飾るもの。転じて教養。
- 「九族」は、自分を中心にして上四族、下四族。社長を中心にして側近ということ。
- 「平章(べんしょう)」は公明正大な政治を行なうこと
- 「百姓(ひゃくせい)昭明(しょうめい)」は民衆の職分や官僚の職務がはっきりして、世の中がよく治まってなごやかなこと
- 「万邦(ばんぽう)を協和(きょうわ)し」は、国家の中枢も国民も一枚岩であったので、隣接する国家も侵略することができず、協和を申し込んでくる
- 「雍(やわら)ぐ」は和気あいあいとしている
- 実力がある、というだけでは十分でない。他に対する細やかな思いやりが安定的に発揮されている。
- さらに、腰が低く、手柄は人に譲る。
- オーラがあり、みんながこの人についてゆこうと思う。存在が説得力。
【貞観政要】十思九徳(じゅっしきゅうとく)
十思九徳(じゅっしきゅうとく)は、リーダーの十の心得と、リーダーが身に着けるべき九つの資質。
中国の歴史史上でも長期政権であった唐(618年~907年)の時代、二代皇帝太宗(598年~649年)の時代の君主と側近の会話から政治の要諦を記したのが「貞観政要」。
三国時代から続いた戦乱、またその後に樹立された随(581年~618年)が短期政権となった反省に立ち、唐は建国の後、どのように安定的に政権を運営してゆくかを重要視していた。
「十思九徳(じゅしきゅうとく)」の教えは、貞観政要に登場する諌議大夫(かんぎだいふ=上司である太宗を諫める役目)の魏徴(ぎちょう)による、「継体守文(けいたいしゅぶん)」=組織を安定的に継続させるための、によるリーダーの十の心得と、リーダーが身に着けるべき九つの資質。(貞観政要 君道第一 第四章)
【貞観政要】十思(じゅっし)
十思は、リーダーの十の心得。
【一】誠(まこと)に能(よ)く欲(ほっ)す可(べ)きを見れば、則(すなわ)ち足るを知りて以て自ら戒(いまし)むるを思ひ、
欲しいと思うものがあれば、「足るを知る」。もう十分満足であるということを知って自分を戒める
- ここまで進んで来られたことへの感謝の気持ちを忘れない
- 欲はどこまでも広がることに要注意
【二】将(まさ)に作(な)す有らんとすれば、則(すなわ)ち止(とど)まるを知りて以(もっ)て人を安んずるを思ひ、
大事業に着手しようというときは、立ち止まって人民に休息を与えることを思う
【三】高危(こうき)を念(おも)へば、則(すなわ)ち謙沖(けんちゅう)にして自ら牧(やしな)ふを思(おも)ひ、
危ない橋は渡らない。つつしみ控えて、自分の実力を考える
- 謙沖(けんちゅう):つつしむ、ひかえる
- 牧:やしなう、みちびく
【四】満溢(まんいつ)を懼(おそ)るれば、則ち江海(こうかい)の百川(ひゃくせん)に下るを思ひ、
傲慢になってしまうことをおそれるのであれば、大きな海は川よりも低いところにあるためにその流れを集めるということを思う(謙虚さを忘れない)
- 満溢(まんいつ):いっぱいになってあふれること
- 江海(こうかい):川と海、入江と海
【五】盤遊(ばんいう)を楽しめば、則ち三駆(さんく)以て度と為すを思ひ、
狩りをするときには、獲物は三方向から追うことを限度とし、それ以上は追い詰めない。楽しむといっても限度はわきまえる
- 盤遊(ばんいう):方々をめぐって遊ぶこと
【六】懈怠(かいたい)を憂(うれ)ふれば、則ち始(はじめ)を慎(つつし)みて終(おわり)を敬するを思ひ、
怠ける気持ちが生じたときは、創業当初の志を思い出し、最後までやり遂げる気持ちを新たにする
- 懈怠(かいたい):なまけること、おこたり
【七】擁蔽(ようへい)を慮(おもんぱか)れば、則ち心を虚(むなし)くして以て下を納(い)るるを思ひ、
自分の耳目がふさがれていると感じるのであれば、心を空にして下の人たちの声を聞くことを考える
- 擁蔽(ようへい):ふさぎおおうこと、おおいかくすこと
【八】讒邪(ざんじゃ)をおそるれば、則ち身を正しくして以て悪を黜(しりぞ)くるを思ひ、
人からそしられることを心配するのであれば、身を正しくして悪は退けることを思う
- 讒邪(ざんじゃ):邪心があって讒言(ざんげん)すること。 よこしまで人をそしること。
【九】恩(おん)の加(くわ)はる所(ところ)は、則(すなわ)ち喜(よろこ)びに因(よ)りて以(もっ)て賞(しょう)を謬(あやま)る無きを思ひ、
恩賞を与える時には、(部下の手柄を)喜ぶあまりに誤って不相応な褒美を与えないよう思う
【十】罰(ばつ)の及(およ)ぶ所(ところ)は、則ち怒りに因(よ)りて刑を濫(みだり)にする無きを思ふ。
罰を与えるときには、怒りによって重すぎる刑を与えないことを思う
【書経】九徳
「書経」の中で、夏王朝の始祖である兎(う)に対して、臣下の皐陶(こうよう)がリーダーの資質として次の9つを挙げた。
【一】寛(かん)にして栗(りつ)
寛大だが、厳格さがある
【二】柔(じゅう)にして立(りつ)
柔和だが、テキパキと物事を進められる
【三】愿(げん)にして恭(きょう)
自分にも他人にも厳しいが、丁寧で横柄な態度はとらない
【四】乱(らん)にして敬(けい)
事を収める能力があるが、慎み深い
【五】擾(じょう)にして毅(き)
静かでおとなしいが、芯はしっかりして毅然としている
【六】直(ちょく)にして温(おん)
正直、率直だが、人あたりは温和である
【七】簡(かん)にして廉(れん)
おおまかに物事を捉えるが、ずさんではなく筋道がしっかりしている
【八】剛(ごう)にして塞(そく)
意思が強く剛毅だが、押しつげがましくなく思慮深い
【九】彊(きょう)にして義(ぎ)
実行力があるが、道理をわきまえて暴走しない
- 陰陽のバランスが大事
- 今の自分の資質や性格が陰陽のどちらかに偏っていないかを見てバランスをとる
- 一か月にひとつ、九徳を実践して九ヵ月で九徳をマスターする それを何巡も繰り返す。
- 九徳の逆を考えてみると、九徳の意味がよくわかる
例:「寛にして栗」の逆は、「こせこせとうるさいくせに、締まりがない」
出典:「九徳」と「十八不徳」~山本七平が語る『貞観政要』にみるリーダーの条件
参考図書
ビジネスリーダーのための「貞観政要」講義
田口 佳史 (著) 光文社



